高松次郎「Shadow Of Key No.293」
2021/4/11 - 4/17

高松次郎「Shadow Of Key No.293」

Jiro Takamatsu
oil on wood,hook / 33.5×24×7.5 / 1970
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活動が多岐にわたる高松次郎の中でも、代表的な作品群である「影」シリーズの内の一作。ここに描かれた影は、作品から突出したフック部分が映した影を描いたものである。しかし作品に描かれた影にだけ鍵のようなものがぶら下がっている。一種のだまし絵であるが、影を写実的に描くということに高松次郎の透徹した絵画への視点を見ることができる。

一般的に写実的な絵画とは、3次元の事物を遠近法などを用いて2次元(平面)で表現する「イリュージョン」の絵画である。ポップアートの先駆者とも言われるジャスパー・ジョーンズはそれを嫌い、絵画の意義を考え、2次元的な事物(標的や地図など)を平面に描くことにこだわった。面白い指向性とはいえ、これはモチーフが限定されるものであるが、影という表現はそれを打ち破るための打開策であるかもしれない。影は3次元の物体が2次元に落とし込まれる瞬間であり、「イリュージョン」に捕らわれずともあらゆる物体を描写することができる瞬間だ。2次元である絵画に最も適した題材が影だというのは1つの正解かと思う。この作品の道具立ては黒い部分が影であることを鑑賞者に意識させるフックと段差のみ。この発想を簡素に表現した所に、高松次郎の頭一つ抜けたセンスを感じる。