2021/6/13 - 6/19
吉田克朗「触-春に」
Katsuro Yoshida
oil, acrylic & graphite, beeswax on canvas / 112×145.5 / 1998
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『触』シリーズの内の一作。
吉田克朗はもの派の中心人物として知られているが、もの派的な表現からは一早く脱却し、さらに新たな表現方法を追い求めた人物でもあった。70年代からはスナップ写真などを用いたフォトエッチング、シルクスリーンにも取り組んでいた。これにより版画といえど見え隠れする≪筆跡≫を極力排除した作品を作っていたが、80年代から始めたこの『触』シリーズにおいては、それとは真逆の手法を用いて制作に取り組んでいる。筆を使わずに、黒鉛などの画材を指に直に付け描いたのである。この作品を近くで見てみると≪指跡≫が確認でき、筆で描かれたもの以上に作者本人の存在を強く感じてしまう。
この作品は、春になり陽光を受け芽吹く樹々や、朗らかな大気の様子を描いているのだろうか。離れて見ると暖かい日差しを受ける森林に見え、近づくと指を用いることで生まれた黒鉛や蜜ロウの塊が、絵の具が盛り上がっているわけでもないのに、生き生きと私たちに迫ってくる。