細井えみか Emika Hosoi 「Lull itself」
この度ボヘミアンズ・ギルド・ケージでは細井えみかによる個展「Lull itself」を開催いたします。
日常の些細な隙間に配置されるそれら。細井えみかの作品は『美術品』という概念についての我々の認識に一つの問いを与え、あまつさえ我々の行為にまで直に干渉する力を時に持ち得ます。彼女の作品は展示するというよりむしろ浸食するという表現が近いかもしれません。生活空間において、家具や壁の継ぎ目に沿う形で点在するそれらの作品は、取り付けられた物体が本来持っていた機能を変容させます。
またマルセル・デュシャン作「泉」やマウリツィオ・カテラン作「コメディアン」のように展示空間により、その美術品としての効力が発揮される作品はありますが、彼女の作品はある面においてより身体的です。用途を想起させる出で立ち、ソファー地や鉄骨、人を何らかの行為に誘う形を持ちながらも、機能面を持たず気軽に触れることを許さない純粋芸術としての作品の在り様。その純粋芸術が家具のように空間に点在する時、人の行動は制限を受け、美術品により行為が規定される事態を招きます。つまりは美術品としての効力により我々が行動を強いられるような空間を作り出す作品なのです。
本展は子供部屋と墓(または教会)という2つの空間を1つのイメージとしてまとめ、構成されています。それぞれが【子供が親に寝かしつけられ安心して眠りにつく⇔寝ついた子供を見て親は安心して部屋を出る】、あるいは、【子孫が先祖を埋葬し魂の安寧を願う⇔訪れる子孫の様子を見て先祖が安心する】という相互に眠り=安心を意味することを見出す細井。この安心はその場所で行う行為により得られているのか、それとも空間により得ているのか。細井による≪空間により安心に誘われる場所≫の再現を是非ご体験ください。また作品の特性上、空間に合わせて制作を行うため、個々人の持つ展示空間に合わせたコミッションワークの相談も期間中お受けいたします。
■ステートメント
深く腰掛けたソファーの手触り、窓から見える家々のエッジの効いた屋根、道端で見上げた陸橋の接合部。気にも留めない些細な日常風景は、いつの間にか記憶の中に積み重なって、大きな安心感に繋がっていく。私にとって物事を「知っている」状態は、自らの精神的支柱となり安寧を生み出す基盤である。けれど頭の中に漠然と存在している記憶やイメージは、身体の器官を通して仕入れた情報を、自分自身で無意識に取捨選択した結果に過ぎない。 私の制作は、見たことのあるもの、触ったことのあるもの、あるいは肌で感じたことのある気配など、五感を通した情報により「知っている」と認識していることが、どれほど真実味を帯びたものかを確かめる行為である。安心の出処を探すため、日常生活にひっそりと存在している要素を掻い摘んでは、「これは何だったか」の記憶を辿る。
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