西村昂祐 Kousuke Nishimura 「幽霊の筆跡」
この度ボヘミアンズ・ギルド・ケージでは西村昂祐による個展「幽霊の筆跡」を開催いたします。
紙などに絵の具を載せ、それを支持体に押し付け引き剝がすことでイメージを創り出す技法、デカルコマニーを用い、肖像画を描くことを特徴とする西村昂祐。
デカルコマニーという技法は1920年代の無意識や偶然性を重んじた前衛芸術運動、シュルレアリスムの中で初めて芸術表現として使用されました。日本におけるデカルコマニーの使用者として有名なのもまた、国内にシュルレアリスムを紹介した瀧口修造ですが、文筆家が本業であり絵画に対しての技巧を持っていないと自負する瀧口本人にとっては、物理的現象に多くを左右されるこの手法を、いわゆる現代的な「南画」ともいえる意図を含ませ使用しました。彼らデカルコマニーの使用者は鑑賞者がその作品にどのような感想を抱こうが自身はそのイメージの介在者でしかないという構造の元この技法を用いてきたのです。またその特性からデカルコマニーは抽象画(または一部に抽象的なイメージを作り出すため)に使用されてきました。
このような歴史を持つデカルコマニーを用いる西村昂祐。従来のデカルコマニーから離れ肖像画という、より具象的な作風に取り組む彼の作品。それはイメージの介在者というよりむしろ、自身のイメージを現前させるための道具としてデカルコマニーを用いているようにも感じさせます。
西村は美術に関心を抱く時期が遅く、本格的に絵画に取り込んだのは高校2年生頃でした。幼いころからの絵画の修練を行っていないと自負する本人の中では、自身の力量を指し示すというよりむしろ筆跡やストロークといった作家性とされる要素を消失させることを目的として、この技法を用いたのです。いわばコンプレックスから来たものとも言えるでしょう。しかしそれは従来の抽象的デカルコマニーが持つ絵画全体のイメージの介在者に作家を変容させるという意味よりも、絵画における唯一性、オリジナリティの担保となるそれら(筆跡やストローク)によりフォーカスした作品とも見えるのです。
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